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中島京子 お茶うけに

「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。

 毎日、朝、電子メールをチェックすると、必ず詐欺メールが何通かある。スマートフォンのメッセージにも闇バイトの勧誘みたいなものが届くし、「警察です」とかいう詐欺電話もかかってくる。

 いつからこんなに詐欺が大流行(おおはや)りになったんだろう。

 自分の恋愛相手がハリウッドスターのブラッド・ピットだと思い込まされたフランス女性が、約1億3300万円を騙(だま)し取られたニュースがあった。詐欺師はAI生成の画像などを送りつけて彼女を安心させていたという。

 いや、まさか、ブラッド・ピットが会ったこともない外国の一般女性と恋愛って、それはないでしょう、と誰でも思いそうなものだけれど、こういう詐欺の手口はとても巧妙で、「自分はぜったいにひっかからない」と思っている人ほど危ないらしい。

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画・谷山彩子

 だから、わたしは毎日、なにかに、誰かに、騙されるんじゃないかと、びくびくして暮らしている。

 先日、弁護士さんに聞いた話だけれども、こうした、ロマンス詐欺を含めての「国際的詐欺」に関しては、事後に取れる対策はほとんどないそうだ。お金はぜったいに戻って来ない。日本の行政権は海外では通用しないし、仮に相手国政府に対策を求めたとしても、対応してくれる可能性は極めて低い。各国警察は、「騙された、よその国の個人」なんかにかまってはいられないのだ。詐欺にひっかからない以外に、防衛策はない。

「じつはね、国際ロマンス詐欺を解決します詐欺っていうのも、あるんですよ」

 と、その弁護士さんは言った…

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